大きな足ひれを着けて優雅に泳ぐ姿は、まるで人魚のようです。二木さんは、素潜りで海に入り、クジラ、イルカ、ウミガメなどの生物とコミュニケーションをとり、その交流している姿を自らが被写体となり写真に収まり、素晴らしい作品を発表しています。また、自身もカメラを持ち、独自の感性で海の中の美しい一瞬を捉えた作品を制作。我々が知らない海の神秘的な一場面を見事に切り取ります。「水族表現家」と名乗り、世界を舞台に海と陸上を繋ぐ活動をしています。素潜りギネス世界記録を2種目樹立という強靭な肉体と精神を持っているからこそ可能になる作品を見ると、まさに唯一無二の表現者と言えます。
「水族表現家」という言葉に興味を惹かれます。どんな意味合いが込められているのでしょうか?
人間は自然と共に生きているわけですが、海の中のことを分からないままでいる人は多いと思います。自らが海中で活動する海洋生物の仲間になり、彼らの視点に立って海の中の世界を伝えていくと決めて、「水族表現家」という言葉を使うようになりました。
酸素ボンベを使わず、素潜りでクジラ、イルカ、ウミガメなどに近づいて、彼らとコミュニケーションをとっている二木さんの姿に憧れます。酸素ボンベを背負って潜るのでは、彼らの仲間になれないのですか?
水の中では、音は地上の4倍の速さで伝わります。ボンベからの少しの泡の音だけで、彼らは敏感に反応して普段とは違う状況を察知し、警戒して離れて行ったりします。ボンベの泡や息遣いの音を出さず、海洋哺乳類と同じように自分の肺だけを頼りに泳ぐことで「仲間」という意識を持ってくれると思います。そして、心を許した時、こちらに近づいてコミュニケーションが生まれます。それは素晴らしい体験であり、同時に、その魅力的な海の世界を映像や写真などを通して、より多くの人に伝えたいと思い活動しています。
素潜りで水の中に5〜6分いることができると伺いました。驚きです。数々の素晴らしい作品は、それくらい長い時間潜ることによって実現するのですね?
いいえ、撮影の時に1回で潜る時間は、だいたい30秒から2分くらいです。できるだけ呼吸は平常な状態にしておいて、何回も水の中に入ります。生物たちとの良い関係性が生まれた時にすぐ対応できるようにするためです。息が上がっていたり無理をしている状況では、彼らも敏感に察知するので、なかなか良いコミュニケーションが取れません。
我々からすれば、水の中での30秒という時間もかなりの長さですが、実際、30秒間で見ることができる海の中の景色は、どんな感覚なのでしょうか?
海の中では、地上での体感時間とまったく違います。浦島太郎の話というものも納得できる感覚になります。海の中では時間経過がゆっくりで、見える景色、経験できる内容は、地上での同じ時間より濃密な感じがします。
毎日、海に入るのですか?
今、葉山に住んでいて、基本的に毎日、海に入ります。夏の間は毎朝4時頃に起きて、2時間〜2時間30分、ストレッチなどのコンディショニングと身体の調整を行い、6時過ぎから約1時間海に入るというのがルーティンになっています。季節によって少しずつ時間は変化しますが、1年中、日の出と共に起きるということを基本にしています。
ヤムナについて伺いたいのですが、朝のコンディショニングの中でヤムナメソッドを実践されているということですか?
コンディショニングは、トレーナーの方に作成していただいたストレッチやトレーニングメニューなどで約2時間を使います。それ以外にヤムナのワークを30分くらい行っています。
ヤムナとの出会いは?
2013年に、知り合いの写真家の方と一緒にヤムナボディローリング(YBR)のレッスンを受けたのが最初です。すぐに映像、ボール、ポンプがセットになっているキット「ヤムナボールメソッド」を購入しました。毎日ではないですが、映像を見ながら自分でやったり、たまにレッスンを受けに行ったりしていました。その後、2020年に、あるプラクティショナーの方との出会いがあり、さらに本格的に実践するようになりました。
実践して、ヤムナメソッドにどんな感想を持ちましたか?
とにかく興味深かったのは、グループレッスンに通った時に「今日のテーマは足」「肩と首」など、細かく身体の部位をターゲットにしてレッスンを行うところです。それまでは、一つの部位だけにそこまで集中して意識を持っていく経験がなかったので。実際にやってみると、激しい動きをするわけではないのに、細かい部位に気づきを与え、動きをスムーズにしてくれるところに惹かれました。
特にお気に入りのワークはありますか?
お腹にボールを当て、大きく呼吸をして沈み込むワークが好きです。それと、肋骨を広げて呼吸を大きくするサイドラインのワークもいいですね。ボールの圧と呼吸との関係が絶妙で、自然と深い呼吸ができる。リラックス効果があることも素晴らしいと思います。
海外での活動も多いかと思います。旅にはヤムナボールを持参するのですか?
はい、当然、必需品なので持って行きます。長時間のクルマ移動の時などは、気持ちが良いので、ずっと背中にボールを当てていることも多いです。
最後に、ヤムナメソッドにどんな魅力を感じているのか、教えてください。
当たり前に行っているので忘れがちですが、「脳」「身体」「精神」は、24時間休むことなく活動しています。それは驚異的なことと言えます。本来、人間は、その3要素のどれか一つが頂点となる二等辺三角形ではなく、バランスが保たれた正三角形があるべき姿だと思います。ヤムナは、その3要素に対して感謝の気持ちを表しているようなメソッドだと思います。こちらも当たり前すぎてその重要性を忘れてしまっている「呼吸」と共に。身体の動きをスムーズにし、脳からの指令を健全なものにし、リラックス効果によって精神の安定を促す――ヤムナメソッドには、そんな力があると思います。まずは自分自身を大切にしなければ、他者への思いやりなど持てるものではありませんので、私はヤムナのワークを上手に活用し、調和の取れた状態にいようと思います。